シャドーイング指導法
シャドーイングとは
「シャドーイング(Shadwing)」とは、英語の同時通訳のための練習法の一つで、聞きながらそれを真似して発音する訓練法です。一文を聞き終えてから繰り返す「リピート」とは異なり、シャドーイングは、聞こえてくる音声を聞きながら、すぐ後ろを影(shadow)のように、できるだけ忠実に追いかけるのがポイントです。近年では脳研究が目覚ましく発展しシャドーイング時の脳内メカニズムが解明され、その効果が確認されています。
「流暢に話したい」「わかるけど話せない」、こうした「(頭では)わかる」と「話せる」の溝を埋める手段が「シャドーイング」です。言い換えれば「理解できるレベル」から「運用できるレベル」に引き上げる練習法です。
練習法自体は簡単ですが、実は「聞きながら発音する」と同時に「発音しながら聞く」というわけですから難易度は高いです。シャドーイングをしているときは、①音声を知覚する。②意味内容を理解する。③意味内容から言語に再構築する。④発話する。という4つのプロセスを瞬時に行っています。その4つのプロセスを学習者にとって外国語で、しかも同時並行的に行うことはかなり認知負荷が高いといえます。しかしポイントをしっかりおさえて、繰り返し練習することで、負担は減り、確実にスキルは上達します。
シャドーイングの効果
①シャドーイングを授業開始時間10分間程度行うことで、ちょうどよいウオーミングアップになり、脳のスイッチを日本語モードに切り替えられます。
②シャドーイングを練習によって、口・舌・喉の動きが滑らかになり、かなりの長文でも流暢に話せるようになります。もちろん耳も鍛えられ、速い会話にもついていけるようになります。
③シャドーイングは音声による学習法です。文字による情報は制限されます。母国で視覚による学習法に慣れ、文字テキストにこだわる学習者への新たなアプローチでもあります。文字化せずに音声言語のみでインプットからアウトプットという脳トレーニングでもあります。
④シャドーイングをはインプットとアウトプットをほぼ同時にするという非日常的な脳に負荷が高い練習法です。こうした練習を短時間でも日々繰り返すことで、高速で日本語を処理することができ、日本語が流暢に使えるようになるという現象が起きます。コンピューターに例えると文法や語彙を覚えることは新しいアプリやデータをインストールすることです。その量が大きければ、小さいCPUやメモリではフリーズしてしまいます(思考停止)。またアプリ複雑になれば処理速度も遅くなります。シャドーイングは脳の日本語メモリを増やし、バージョンアップする方法でもあります。高速で日本語を処理できるようになればリスニングはもちろん読解への効果にも繋がります。
⑤シャドーイングモデルの音声をまねて声に出す作業です。繰り返すことで無意識にイントネーション。アクセント・リズム・プロミネンスなどがネイティブに近いものになります。化石化してしまった発音も自然に矯正されます。また意識して練習すればより早く効果が出るでしょう。そして最後に意識しなくても母語話者に近いイントネーション・アクセント・リズム・プロミネンスなどが身に付きます。
⑥シャドーイングを日々繰り返すことで、覚えようとしなくても脳内に語彙や文型表現、コロケーション、決まり文句のようなフレーズ、会話が情報として少しずつ蓄積されていきます。実生活の中で蓄積された情報と同じ場面に遭遇した場合、しれが誘因になり、自然な受け答えが無意識にでてくるようになります。
シャドーイングのいろいろな練習法
●シンクロ・リーディング
いわゆる黙読する。シャドーイングをする前に音声を聞きながらスクリプトを目で追います。まずは発声しないで、文字で確認することに重点を置きます。一文の中でもスピードが速くなったり遅くなったり、間を取ったり、声を大きくなったり高くなったりする箇所があります。それを意識させてください。また長音、促音、濁音など各々苦手な点を確認しながら聞きます。
●サイレント・シャドーイング
聞こえてくる音を声に出さずに頭の中で言う練習法です。スピードが速い会話や、発音しにくい表現にはまずこの方法で試してみましょう。
●マンブリング
聞こえてくる音をはっきりと発音しないで、ブツブツと小声でつぶやく方法です。イントネーションの感覚を掴みましょう。
●プロソディ・シャドーイング
特にリズムやイントネーションに注意してシャドーイングする練習です。例えば「あ-」あ~」「あっ」ではリズム・イントネーションが違います。意識して練習しましょう。
●コンテンツ・シャドーイング
意味を理解することを意識しながらシャドーイングする練習法です。プロソディ・シャドーイングを十分に練習し、習熟したら、意味や場面をイメージしながら練習してください。
実際の指導例
シャドーイングのルール
シャドーイングをする前に3つのルールを確認します。
1.一生懸命、頑張らなくてもいいです。
リラックスして取り組むことが肝心です。
2.耳と口の練習ですから覚えなくてもいいです。忘れてもいいです。
覚えようすれば思考がそちら向き、口が動かなくなります。
3.練習しなくてもいいです。
音声がない状態で、自己流で発生練習すると、変なくせがつきます。
シャドーイング開始
1.シンクロ・リーディング
音声を聞きながらスクリプトを目で追います。
2.内容把握
音声を聞きながら翻訳文を読み、場面をイメージし、大意を掴みます。
3.スクリプトを見ながらシャドーイング(A文は聞き、B文を発話)
実際に発声して発音しにくい言葉などを確認します。なるべく音声とスピードを合わせながら、リピートにならないように意識します。
4.シャドーイング×3回(A文は聞き、B文を発話)
テキストは見せません、耳に集中させます。口がなかなか動かない場合は、サイレント・シャドーイング、ハミング、マンブリングで対応します。決してリピートにならないように、文頭と文末を合わせるだけでもいいです(リピートになってしまうと、発声している時に、次の会話が始まっているので聞き取り練習にならないので)。習熟するにつれて、プロソディ・シャドーイング、コンテンツ・シャドーイングへ進みます。
5.スクリプトを見ながらシャドーイング(A文は聞き、B文を発話)
最後にスクリプトを見ながらシャドーイングして、練習の成果を確認します。
シャドーイング終了(約10分)
以上を4回(4日間)行います。最終日に効果を確認することもあります。
効果測定の仕方
テキスト見せないで、A文を聞かせ、音声を止めてB文を即答させる。その後B文を確認する。即答できない場合は文頭の語を提出するとすんなり答えられます。